2021年5月、ディジュリドゥという中が空洞な丸太のような楽器に、樹脂粘土で蛇を作って巻き付けたものを制作しました。他の方にもぜひ作ってほしいので、私が試行錯誤した様子をご紹介します。作り方と材料・道具については、さっくり作り方篇をご覧ください。完成品は製作依頼主のFacebookの記事 2021年5月12日17:37と2021年6月15日05:02でご覧ください。試行錯誤しながら一度作っただけなので、これがベストな作り方なのかはわかりません。また、作者は造形について学んだり生業にしているわけでもなく、自己流で作成しています。実際には複数の作業を同時進行でやっていますが、記事にする都合上、話題ごとにまとめて書いてます。
2019年10月。私が通っているドラム教室の先生が還暦を迎えるので、何かちょっとしたプレゼントを贈ることにした。ディジュリドゥというオーストラリアの楽器が大好きな方なので、ディジュリドゥグッズから選ぶことにした。しかし、選択肢があまりに無さ過ぎて絶望し、悩んだ末、自作することにした。樹脂粘土で先生がお持ちの自慢のディジュリドゥのミニチュアを作り、裏に小さな強力マグネットをくっつけたものだ。
それから一年とちょっとが経った…。
SNSのチャットで先生から「この(ミニチュアの)粘土?でディジュリドゥの表面に蛇をくっつけたい。」という話があった。浮彫でディジュリドゥに蛇が巻き付いたようになった写真が添えられてた。自分用に制作しようと思ったらしい。なにそれ!? めっちゃ面白そう…。でも専門の造形作家へ依頼して作ってもらうんだろうな…。「出来ますよ。いいですね!」みたいな適当なことを言っておいた。が、翌日になってやっと「昨日の話って、もしかして私が作るっていう話だった?」と気づきいた。念のため、次のレッスンまでに軽く調べておこうか…。
ディジュリドゥに立体的な動物がくっついたものを探してみる。木彫りのワニがあった。「carved didgeridoo」で検索するといくつか出てきた。そういう文化はあるのか…。木以外のものがくっついたディジュリドゥってあるのか? 樹脂っぽい蛇を載せたやつがあった! こういうのを作りたいのか? 音はどうなるんだろう? 演奏者の名前から調べたら、演奏動画があった! …音質がよくわからん! 大量に粘土盛っても大丈夫なんだろうか…。
ディジュリドゥに限定せず、楽器に粘土を盛ることについての情報を探してみる。ない…。「粘土で楽器を作る」はあっても「粘土を楽器に盛る(付ける)」という話がない。塗装したりシートを貼ったりするのはよくあるけど、塊を付けることはないのか? 楽器本体の振動を妨げるからダメってことか? 自分で検証しないとわからないってことか…。これは辛い…。いろいろ検証して検討する時間が必要だし、大きいので作成時間もかかるだろう。たぶん私はこれ1個しか作れないので、今後他の人にも作ってほしい。素敵なカスタマイズディジュリドゥがいろいろあったら楽しくない? 他の人のために情報を公開することにしよう! (というわけでこのページを作りました。)
レッスンの日。やっぱ私が作る話だった。大きさが全然違いますけど!? 発注先選択がワイルドだな…。絵を描く(塗装する)のは別の人を探すとのこと。じゃあデザインは形だけ考えればいいのか。絵を描く人の希望を聞いて考えるものいいかな。で、どんなのがいいんですか? 下調べで見つけた樹脂製蛇ディジュリドゥを見せて聞いてみよう。
さらにちょっとヒアリングして、私が思う要件も考えてみる。家へ帰ってからまとめてみる。
音が問題だな。どんなにカッコイイ蛇が作れても、音だダメだったらライブで使えないな。それも先生の耳が満足する音でないといけないだろう。
粘土にはいくつか種類があるので、どれにするのか決めないといけない。第一条件が「音に影響しないこと」なんだけど、ネットに情報がない! 「粘土で楽器を作りました」はあっても「楽器に粘土をくっ付けました」はない! 出来ないからないのか、そんなことやろうとする人がいないのか…。自分で検証するしかないのか。実際にディジュリドゥに巻き付けるのではなく、小さい規模で検証したい。MEINL Travel Didgeridoo(DDG-BOX)(以下「トラベルディジュ」)という小さいディジュリドゥを持ってるので、これにべったり粘土をくっ付けて検証しよう。動画に撮って資料として公開しよう!(この時点で先生に許可をとりました。)
手持ちのドラムスティックと100円ショップで買ったケーキ型5号を使って粘土を板状にする。サイズは直径15cn×厚み14mm。
トラベルディジュに張り付けて乾燥させる。これを3種類の粘土で作る。重さも量る。粘土の内容量は重さで記載されているんだけど、同じ重さでも種類によって体積が違うので、購入量の参考にするんだ。ちょっとはみ出たので、トラベルディジュの曲面に合わせて粘土も曲げた。どのくらい縮むかわかっていいだろう。
他に、箸とクッキー型で薄い円盤も作ってみる。これで縮み具合がよくわかるだろう。棒に巻き付けたものも作ってみる。毛糸を接着剤で棒にくっつけて、それをとっかかりにして粘土を巻く。石塑粘土は伸びなくて辛いな。全部乾くまで時間がかかるので、パーツの試作品を作ろう。
1枚めを作って数日後…。トラベルディジュに貼った粘土が乾かない! ディジュリドゥに接地した面からは水分が抜けないらしい。待ちきれないから、1枚に付き丸三日経ったらディジュリドゥから外してしまった。本番は粘土だけで作ったら、全部乾かないのでは? 中に何か別のものを埋めて、表面を粘土で覆う感じにすべきか? 中に麻紐を入れたバージョンも作ってみよう。粘土が余っていたハーティクレイ(軽量粘土)で作る。
ディジュリドゥによく描かれている蛇を膨らませた感じにするのか、ちょっとリアルな感じにするのか。試作品を作ってみよう。100円ショップで買った粘土でざっくり作ってみる。リクエスト通り舌も作った。リアルなほうはどんな形にするか…。蛇の種類はいろいろあるけどアオダイショウっぽくしてみようか。
先生のリクエストの義眼を探してみよう。別のディジュリドゥに埋めたのは生物に使える本格的な物だったらしいけど、剥製用パーツから探せばいいかな。ネットでも買えるようだけど、希望のサイズとデザインのもが見つかるだろうか? 自作する案も考えようか。本体のデザインに合わせて作れていいかもしれないし。ネットで調べると、ガラスで自作、レジンで自作、カボション(透明な半球状のもの)で自作という方法があるようだ。ガラスは道具を揃えるハードルが高そうだし、レジンは黄色く変色しそうなので、カボションでやってみるか…。
本番はガラス製、試作は100円ショップのアクリル製にしよう。セリアに売っているらしいので行ってみたけど無い! どこの店にもあるわけではないらしく、3店めで見つけて入手。大きさは二種類買っておこう。まずいろいろな素材で目の絵を作る、動物の目は夜に見ると光るよね。蛇も光るのか? よくわからないけど薄暗いライブハウスで光るといいかも。蓄光シールと反射シールは100円ショップ、蛍光は釣り具店で入手。他は手持ちのもので塗った。蛇の黒目は丸と縦長があるようなので両パターン描いた。思いつく目を全部描いて、強力接着剤クリアでカボションに張り付け、余分な紙をハサミで切る。空気が入らないようにしつつ、黒目が中心にくるようにするのが難しい。先生に見せるから、持ち運べるように台紙に貼ろう。台紙にはマスキングテープの粘着しないほうに糊を塗って貼る。これで目玉が取り外し可能になって、好きなものを頭の試作品にあてはめられる。
使用した材料は左上から以下の通り。
頭と目玉の試作品をレッスンへ持って行き、レッスン後に先生に見てもらって検討する。たまたま娘さんも居たので、いっしょに検討してくれた。実物があると完成品を想像しやすくて、いろいろ意見が出るなあ。
最終的に頭はリアルなほう、目玉は反射シールに黒目縦長で決定。気になる発言があったので確認したら、塗装も私がやることになっていた。いろんな人に頼むと手間がかかるからとな…。あー、まあ、そうですよね。塗装する人と連携取るのどうやろうかなーとか思ってましたし…。でもまずいぞ。塗装のことよく知らないんだけど、ちゃんとやらないとすぐ剥がれたり、下地が溶けたりするんだよね? 小さいものと大きいものでは使う道具とか技術とか違うのでは? 調べるというか勉強しなきゃ! (後で気づいたけど、断るという発想は無いのか?)
リアル系で蛇を作ることになったけど、蛇のことよく知らない。実物の形と模様を観察したい。それもいろんな角度から。動物園、ペットショップでは難しいだろうな…。猫カフェの蛇バージョンはあるのでは? 調べたら、大蛇バージョンがある! しかも余裕で日帰りで行ける! これは行くしかない! ディジュリドゥ持参で行って、写真撮りまくって、店長に質問しまくった。店長に事情を説明して、自分ではなくディジュリドゥと蛇の写真を撮らせてもらった。
しっぽがくりんとなってるのがカワイイので取り入れたい。
お腹もチェック。模様がないタイプとあるタイプがいるそうな。お腹をチラ見せするのいいかも。
大蛇LOUNGEの情報。大蛇好きな人は行くべき! 場所は神奈川県の真ん中あたりにある海老名市です。
乾燥した粘土板をトラベルディジュにくっ付けて、音がどうなるのか検証。私の素人耳では音の変化や良し悪しをきちんと聞き分けられないと思ったので、先生にやっていただく。先生は私の叩くスネアの音を聞いて「ヘッド破けてない?(ものすごーくよく見るとちょっぴり破けてる。)」などと言う人なので、私はOKでも先生はNGということになりかねない。やってみたところ、粘土の種類によってちょっと違うらしい。やっぱ先生にやってもらってよかった…。どれも音は悪くはなっていないようなので、楽器本体にくっ付けるぐらいならたいして問題ないのかも。太鼓のヘッドとか弦楽器の弦とかにくっ付けたらミュートになってダメだろうけど。蛇ディジュリドゥはモデナソフトで作ることにした。高いけど、スティックみたいに買い換えるものではないからいいってことで。下地に麻紐を入れることにする。詳細は検証動画をご覧ください。
以下、各粘土情報です。所感は私の意見です。
スプレーで塗装したことが無いので下調べする。ネットでラッカーのこと、油性と水性の違い、ゴールド塗装、スプレー缶の扱い、下地作りなど調べる。ゴールドの塗装は他の色と違ってやっかいらしい。表面に金粉を浮かせてキラキラ感を出しているので、触ると金粉が手に付く。金粉が落ちないようにしようとしてニスを塗ると、変な色になったり、キラキラ感が無くなる。スプレー塗装初心者が選ぶ色じゃないのでは? でも出来るだけキラキラ感があり、色落ちしなくて、初心者でも塗れそうなスプレー缶を探してみよう。ネットで色見本見ても、実際に塗装した時も同じになるのかよくわからないな。たぶん違うのでは? 実店舗なら塗装サンプルがあったような気がする。数店舗回ってチェックした。各店舗で取り扱い商品が違うので、5・6種類見れた。同じ「ゴールド」色でも色味が違うのでチェックしてよかった。耐久性と見た目を考えて、カンペハピオの油性シリコンラッカースプレーのゴールドにしてみた。メタリックゴールドではなくゴールドにした。塗装のテストをしたいのでもう420mL入りを購入する。
ここで先生から「色はゴールドでなくてもいい。目安で言っただけだから他の色でもいいよ。」という発言が! えーーーーーっ!? ゴールドがいいのかと思って、めっちゃ勉強したんですけど!? もう買っちゃったし、せっかく勉強したしんだし、ゴールドのほうがインパクトありそうだからもうゴールドで行こう!
検証用の粘土板で試しに塗装してみる。段ボール箱を筒状にしたゴミ袋をかぶせたものを作成。中に粘土板を入れて、スプレーを持った片腕を突っ込んで、塗料が飛び散らないようにして外でやった。乾燥後に触ってみたけど「手がちょっとキラキラしてる?」と思うぐらいしか色落ちしないのでよさそう。左下は水性ニスを塗ってみた。変な色になって、キラキラ感が減ったのでボツ。鱗模様がはっきりしていたほうがいいと思い、墨入れも検討してみる。ガンプラ等の模型で、機体の繋ぎ目の溝に濃い塗料を流し込む技術。エナメル塗料を適度に薄めて使うんだけど、やったことないのでいい感じに薄め済みのタミヤのスミ入れ塗料(ブラウン)を使うことにする。はみ出た塗料を拭き取るためのエナメル溶剤も買う。墨入ってると模様がハッキリしていいんだけど、はみ出たところを拭き取ったら金粉が取れて汚くなったのでこれはボツだ。(写真を取り忘れてしまいました。)
後日、塗装サンプルを先生に見せて検討。ゴールド塗装のまま、ニスも墨入れも無しでいくことにした。車に積んで運ぶので、あまり落ちないでしょう。私が納品のために担いで運ぶときは何か対策が必要かな。
まずは表面をきれいにする。べつに汚れてないんだけど、念のため。表面の傷や塗装の剥がれの位置も確認。破損して補修したところは絶対に隠したい。隠れない傷は後で直そう。
紐を巻き付けてマスキングテープで留めて、蛇の中心の位置決め。要件をすべて満たすようにする。スタンドの位置を確認した時に貼ってもらった養生テープを剥がしたら、ディジュリドゥの塗装が剥がれた!!!!! ヤバい!! でもこの傷も上手いこと隠せた! 最終的に、本物の蛇みたいに、下半身で巻き付いて体を固定して、上半身をディジュリドゥの上に這わせたようになった。
蛇の肉付けをどこまでするか、下書きをしたい。ツルツルしたところに書けて、間違えたらキレイに消したいんだけど、何で書けばいいんだ? チャコペンとか建設用チョークとか検討したけど、三菱鉛筆の水性ダーマトグラフにした。正確には油性が「ダーマトグラフ」、水性が「レインボー」という商品名。どちらもガラス、金属、プラスチックに描けて、水性は水で消せる。粘土に鱗模様の下書きをする時にも使えそうなので、黄色を使うことにする。水で濡らしたティッシュでキレイに消えて素晴らしい!
粘土がディジュリドゥにくっ付くようにして、かつ、何かで底上げして乾きやすくしたい。確か義務教育で習った粘土像の作り方は、針金で骨組みして、麻紐巻いてた気がするが、今回は巻けない! 接着剤で貼るしかない。接着剤付けて、麻紐乗せて、マスキングテープで留めてを延々と繰り返す。太さ二種類の麻紐を使い分けて貼る。頭どうすんの? 麻紐の塊を作るのはきつい…。検証用に作ったやつが使えるのでは? 削って一回り小さくして、接着剤で貼りつける。表面はデコボコにして、粘土がくっつきやすくする。
作業環境を作りもやる。ディジュリドゥを作業台に寝かせるので、巻き付けた粘土が台に付かないよう、足になる台を作る。段ボールを長方形に切って折って三角にし、ガムテープでてきとうに留める。ディジュリドゥが載る部分は少し窪ませて転がりにくくする。これを二つ作る。ディジュリドゥスタンドや壁を使って立てた状態で作業しようかと思ったけど、粘土を押し付けるので台に寝かせたほうがいい気がする。あとたぶん、腕が疲れると思う。(この後完成まで、この台が粘土に触れないようにしないといけなかったんだけど、大変だった。重心がディジュリドゥの中心からズレるので、上になっていてほしい方が上にならない。注意しないと勝手にクルンっと回って蛇の頭が下になる。結果、粘土がディジュリドゥと台の間に挟まってしまう。)
テスト用のとは違う、ちゃんと半球状のカボションを購入。それ以外はテスト用の時と同じように作る。盛り上がり過ぎに見えるけど、粘土にちょっと埋まればいい感じになると思う。目玉は出っ張るから、ぶつかって取れてしまいそうだな…。土台に接着剤でがっつり着けておこう! かぶせる粘土の厚みを考慮して、いい位置に接着する。2枚目の写真は、試作品の頭に目玉を付けてみたところです。
舌パーツは小さくて成形しにくいので、先に作って、張り付けておこう。まずはテーブルの上で成形する。ひっかかって取れないように面取りしておこう。ディジュリドゥの上にそっと乗せて、軽く押さえて未着させて乾燥させる。乾いたら紙やすりをかけて、ディジュリドゥに接着。(この時点で着色もやっておけばよかった。なんでやらなかったんだ?)
一番メインの作業! 一気に全部作って乾燥させたほうがいい気がする。どのくらい時間がかかるかわからないので、丸一日休みの日に朝から作業開始する。しっぽから作り始め、慣れた頃に難しそうな頭を作るようにしよう。ではしっぽから。手のひらサイズの粘土を練って、ディジュリドゥにくっつけて成形。これを繰り返す。難しい…。粘土が簡単にディジュリドゥにくっつかないので、押し付けながら成形しないといけない。あと大きい粘土の操作に慣れてないせいもある。表面がデコボコになったけど、乾燥後に紙やすりで整えるからまあいいか。(やすりがけ作業で後悔することになる。ここで出来るだけ平にならしておくべきだった。)
しんどいので一旦休憩したい。飽きたし。まだ粘土を重ねる部分にラップを貼って乾燥防止しておいて、ちょっと休憩。確かに乾燥はしなかったけど、水分が均等に回ったらしく、表面がべっちょべちょになった。ならすのが面倒なので、一気にやるべきだった。
頭の作成。まず目の周りを先に作る。目と肌の境目がキレイになるようにしておきたい。紐状にした粘土をくるっと巻いて貼り付ける。口先も先に作っておく。舌がニュッと出てきたような、おちょぼ口みたいな感じにしたいので、紐状にした粘土を載せる感じで作る。あとは平べったくした粘土の塊を何回か張り付けて、なじませて完成!
粘土が中まで乾燥してから塗料を塗らないといけない。乾燥前に塗ると水分の逃げ道が無くなって、粘土内に水分が均等に行き渡ってブヨブヨになるそうだ。でも中まで乾燥したのかどうやって確認する? アクセサリーだったら乾燥剤の中に入れておくという技があるけど、ディジュリドゥのサイズは無理。余った粘土でおせんべいサイズの粘土板を作ろう。作業台に調理用ラップを敷いて、その上に粘土を載せ、蛇と同じぐらいの厚みの板にする。ラップがディジュリドゥのかわり。透明だから見た目もわかるし、ちょっと押して確認も出来る。結局一か月はかかった。(粘土板を作った直後の写真を取り忘れました。後工程で試し彫りをしてしまった後の写真です。)
お手本のディジュリドゥの蛇は鱗模様を彫っていたようなので、私も負けずに彫りたい。いちおう彫らずに描く方法も検討してみる。描く場合は下書きしないと無理なんだけど、ゴールド塗装前に描いたら見えなくなるし、塗装後はまともに触れないから下書きなんて出来ないから無理。彫るしかないな! でもモデナソフトを彫る話聞いたことないんだけど? 商品説明にも書かれてないし。検証用の粘土板で試したところ、切断面がちょっと荒いけど彫れなくもない。ついでに紙やすりも試したけど大丈夫そう。紙やすりで整えて、水性ダーマトグラフで下書きして、彫刻刀で彫ることにする。問題は鱗の形なんだけど、造形物でよくあるのはひし形を並べたもの(一つめの絵)。でも本物は鱗が頭側の鱗にちょっと潜り込んでる(二つめの絵)んだよね…。鱗と鱗の隙間はよく伸びる肌になっているので普段はこうなっていて、必要に応じて伸び縮みするらしい。本物っぽく彫るか! 試しに彫ってみたけど出来そう!
私が納品する時はバッグに入れて担いで運ぶので、金粉が落ちないように袋に入れていきたい。ちょうどよく異様に長い袋なんて無いので、ゴミ袋を切って接着剤で貼り合わせて作る。
蛇の頭の近く、ディジュリドゥの塗装がちょっと剥がれている。お客さんが近寄って見たり、先生が写真を撮ったりした時に見えたらかっこ悪くない? 直そう! 先生に許可は貰っておいた。絵の具が載るかよくわからないので、念のためプライマー塗って、アクリル絵の具塗って、色鉛筆で調整して、水性ニスを塗ってみた。ニス塗ったらちょっと濃くなっちゃったけど、いい感じでは? 言われないと気づかないんじゃない? 触った感じは違和感なし。
だいたい乾燥してきたので、表面の加工を始める。まずは粘土がどうなったのか全体をチェック。しっぽがちょっと浮いてる。何かにひっかかってべりッと取れかねないので、接着剤で貼り付ける。乾くまで伸縮性のあるバンドで固定。目と舌は問題なさそう。
蛇とディジュリドゥの境目のギザギザになっているところは、デザインナイフで切り落としてキレイにする。下描きの水性ダーマトグラフはもう不要なので濡らした布で拭いて消す。たぶん、残っているでマスキングテープが付きにくくなって隙間が空いて、塗料が入り込むと思う。
次は紙やすりで表面を整える。その前に、ディジュリドゥ表面までやすりがけしないようにマスキングテープで保護する。あれ? 曲線どうするの? ちまちまちぎって貼っていく。全長2mの両サイドだから約4mか…。貼り終わった後に「曲線用マスキングテープなんてのがあるんじゃない?」と思って調べたらあった。あるのかー。塗装する時は買ってこよう。
100番の紙やすりを要らない名刺ケースに巻いて、蛇の全身にかけて、不自然なデコボコを無くしていく。地が白くて凹凸がよくわからないので、ライトを横からあてて影を作って確認する。序盤の粘土の盛り付けが下手なしっぽのあたりが大変だった。
顔のあたりに粘土の盛りが足りないところがある。どう見ても足りない…。アップで写真撮るのは無理なぐらい足りない。粘土かパテで埋めるか。質感が変わらないよう、出来れば同じ素材で埋めたいけど、粘土の説明に乾燥後はもうくっ付かないので接着剤で付けないといけないとある。きっちり接着するのは難しいので、パテで埋めよう。以前、マグカップの取っ手の修理に使ってよかったのでタミヤのエポキシ造形パテ (高密度タイプ)を使うことにする。まずは検証用の粘土板でテスト。粘土を削ったところをパテで埋めて、彫刻刀の平刀で余分なパテを削って、やすりかけて、スプレー塗装してみた。穴が浅いと埋めにくい。パテの地肌そのままだと塗装後の見た目が粘土と異なるので、やすりがけしておけばなんとか大丈夫そう。削るのも出来た。
蛇にパテで埋めて、紙やすりで削った。パテの部分もちゃんとやすりがけした。
鱗のサイズを決め、蛇本体に下描きとしてマス目みたいなものを描いて彫ろう。水性ダーマトグラフで、粘土に溝が出来ないようにやさしく描く。頭は本物の蛇の写真を参考にして、模様を描く。なんか左右対称にならいなぁーと思ったら、ディジュリドゥが左右対称じゃないからか…。難しい。胴体は首からしっぽへ向かって彫る。本物の蛇のは体に沿って鱗が整然と並んでるから、そういうふうに彫りたいんだよね…。胴体の下描きは、骨を描くようなイメージでやればいいのでは? 中心に背骨のように一本描いて、背骨から等間隔で垂直にあばら骨を描く。あばら骨も等間隔に印を付ける。こうやって少し下描きしては彫るのを延々と繰り返す。カーブしてるところは鱗の大きさを変えて…と思ったけどよく考えたら違う! 鱗の大きさは変わらないはず。一部のカーブは間違えてしまった…。直すとおかしくなりそうなのでもうこのままにした。難しい! 蛇が立体なので、刃を入れる方向が限られる。彫る場所以外の蛇の胴体が邪魔になったりもする。ディジュリドゥを台に置いて、自分が動くのは無理そう。ビーズクッションに座って、ディジュリドゥを抱えながら彫る。数回彫ったら、ディジュリドゥをぶん回して位置替え。全長2m5cm、鱗1849枚の蛇を彫り上げた! 梅雨に入る前に塗装を済ませたほうがいい気がしたので、GW数日使って一気にやった。(後でFRP製ディジュリドゥ制作者が「梅雨の湿気で塗料が乾かない。」と言っていたという話を聴いて、早めにやってよかったと思った。)
スプレー塗装しない部分を先に塗装しておく。蛇本体には色落ちしやすい塗料を塗るのでマスキングテープを貼れない。ということは、アクリル絵の具で塗る舌とお腹を先に塗ることになる。やらなくても塗れそうだけど、いちおう練習ということで、塗装しない部分をマスキングテープで保護する。アクリル絵の具で色を塗って、ニスを塗る。乾いたら、ドライヤーであたためながらマスキングテープを剥がす。やっぱりクリア塗装がちょっと剥げる。むぅぅ…。
まず、どこで作業するかが問題だ。ご家庭の室内とかベランダとか庭とかでやるのは厳しい。模型なら大きい段ボールでなんとかなるかもしれないけど、ディジュリドゥは入らない。塗装する場所を貸してくれるサービスがあるんじゃないか? ネットで「塗装 レンタル」で探したら何種類かあるみたい。
自動車の塗装ブースがよさそう。でも車に関係なくてものでもいいのか? 神奈川県横浜市にある「レンタルピット サンエース」にしよう。塗料の持ち込みOKだし、洗面所ありそうだし、空気中に舞った塗料を吸い込むすごい機械があってよさそう。電話予約した時にどんな物を塗装するのか聞かれたんだけど、「2m弱の細身の丸太のような楽器です。」と言っておいた。一瞬「ディジュリドゥです。」って言いそうになったけど、きっと「は?」って言われるから思いとどまった。予約した時間に行けばいいそうだ。塗料が乾かないとバッグに入れられないので、乾燥させる時間も考慮して予約した。
塗装する前日までにマスキングする。今度は曲線用マスキングテープでやった。タミヤの曲線用マスキングテープ 5mmを買ってみたらちょうどよかった。最初にちょっと貼ったら、右手で押さえて、左手で持った巻いてあるやつをちょっと引っ張りながらどんどん貼っていく。カーブがきつ過ぎて曲がらない部分のみ、途中で切って、貼りなおす。蛇とディジュリドゥの境目を全部貼ったら、ディジュリドゥを紙で覆う。出来るだけ、マスキングテープの糊がディジュリドゥに付かないように貼る。剥がす時にクリア塗装が剥げちゃうから。蛇の目と舌とお腹も隠す。
塗装ブースへ持って行くものも前日までにちゃんと準備する。
当日、迷子になった…。でも迷子になってもいいように余裕をもって出発したので、予約時間ちょうどに着いた。レンタルピットの人に作業場所に案内してもらい、ディジュリドゥを置く台を用意してくれて、ベンチュリーブースという機械の操作方法を教えてくれた。スプレー塗料の使い方まで教えてくた! 使っていると缶が冷たくなってガスが出にくくなるので、ちょっと使ったらあっためる必要があるそうな。あとよく振って使うこと。シェイカーみたいにすればいいのかな? 結果、シェイカーを振り、シューとスプレーし、缶を抱きしめる(温めている)という行為を繰り返す変な踊りみたいなことを黄金の蛇の周りでやる、全身が真っ白な怪しい人になっていたと思う。周りに誰もいなくてよかった。(レンタルピットの人は説明後に事務所へ戻った。)
DYIラボ 缶スプレー塗装を学ぶで予習した通りやったら、塗装はめっちゃ上手く出来た。塗装したところが台に触れないようにしつつ、蛇の位置と私の位置を入れ替えて、様々な方向から少しずつスプレーをかける。ベンチュリーブースという機械が空気中の塗料を吸ってくれてすごくいい! [私 - 蛇 - ベンチュリー]の順でいれば、塗料が全くかからない。[蛇 - 私 - ベンチュリー]の順だと大惨事になるので注意だ。様子を見に来たレンタルピットの人に「キレイに塗れてる!」と言ってもらえてよかった! 早く先生に見せたい…。片づけして、塗料が乾くのを待ってから帰った。
家に帰ってすぐマスキングテープを剥がす。すぐ剥がしたほうがいいそうな。ディジュリドゥ上の塗料がマスキングテープといっしょに剥がれないように注意する。また、ディジュリドゥのクリア塗装が剥げないように、ドライヤーで糊をあたためながら剥がす。気が抜けない…。でもちょっとクリア塗料が剥げてしまった。舌のところにちょっと金色が付いてた! 隙間があったのか…。デザインナイフで金色だけこそげ落とし、ニスを塗った。粘土の部分で塗り残しがちょっとあった。マスキングテープ貼るの失敗したか…。白いのは目立つなー。でももうスプレーかけられない。場所がない。同じ色じゃないんだけど、アクリル絵の具のゴールドを塗ってごまかす。白いままにするよりはいいだろう。
粘土を盛っている時に見つけた、ディジュリドゥ本体の穴を直す。最初のチェックの時は無かった気がするんだけどなあ。ということは私がやってしまったのだろうか? マズイ…。ちゃんと直そう。パテで埋めて、アクリル絵の具塗って、ニスを塗る。学習したので、色は薄めにした。近寄ってよーく見ないとわからないレベルに仕上がった。使い道あるのかよくわからないスキル身に付いたな。
最後にディジュリドゥのクリア塗装が剥げたところにニスを塗る。ライトをあてて、剥げを全部探して塗った。ぶ厚くならないように、刷毛目が付かないように注意して塗る。
完成! 納品用の袋に入れて、バッグに入れて、先生へ納品! さっそく先生本人に演奏していただいて確認。検証動画も撮らせてもらった。
数日後、先生の高級カメラで撮った写真がFacebookの記事 2021年5月12日17:37に載った。蛇にパテ埋めしたところも、ディジュリドゥの茶色塗装の剥げを直したところも、ディジュリドゥのクリア塗装の剥げを直したところも、金色をこそげ落とした舌のところも映ってたけど、誰も気づいてない! やった!
後日、ライブで演奏されているところを見に行った。設置の様子はFacebookの記事 2021年6月15日05:02でご覧ください。スタンドの位置が想定より拭き口寄りになっていて心配だったんだけど、問題ないみたい。MCで蛇ディジュリドゥの紹介がされた。ディジュリドゥ本体の説明の時は静かだったのに、「生徒に頼んで蛇を巻いてもらった。」という話しでお客さんがクスクス笑い出すのなんで!? 作るのものすごく大変だったのに!? …よく考えたら、音楽教室の生徒に頼む作業じゃないわ。そりゃ笑うわ。笑いのネタも作れてよかった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。先生のディジュリドゥコレクション数は店レベルを超えて博物館レベルなので、この蛇ディジュリドゥが次にライブで使われるのはいつかわかりませんが、もし遭遇したらぜひ近寄ってご覧ください。